HOMEROOM

vol.1

隠れた意匠に宿るもの

建築家 弥田俊男さん

東京と岡山、2拠点で活躍されている建築家の弥田俊男さん。 隈研吾都市設計建築事務所の在籍中はサントリー美術館や根津美術館など数々の名建築を生み出してこられました。 独立後は奈良の春日大社国宝殿(旧称:宝物殿)の増改築や、現在は岡山駅前広場リニューアルの設計を手掛けるなど、ますます活動の場を広げられている弥田さんに働くことについて伺ってきました。

__なぜ建築家になろうと思われたのですか?

小さなときから絵を描いたり、物を作ったりするのが得意だったんです。 ただ自分はクレイジーな事はできない、理性的な人間だなと自己評価をしていました。 クリエイティブと理性とのバランスが自分に一番合っていて、自分がずっと楽しめるのが建築だなと不思議と確信していました。 なので、建築家を目指したのはごく自然な流れでした。

__京都大学大学院で建築を学ばれて、卒業してすぐ隈研吾さんの事務所に入られたのですか?

そうです。 夏休みに東京に行っていたときに、隈さん(隈研吾建築都市設計事務所)が面白いなと思って、予定の空いていた土曜日に突発的に電話して事務所を見学させてもらったんですね。その日たまたま隈さんがいて、そこでいきなり面接が始まって。笑 その後数ヶ月たってから留守電で採用の連絡が入ってました。

__すごいトントン拍子ですね。正規ルートもいいけれど、思い立って行動するのも大切なんですね。 事務所に勤められた中で盗めたな、と思う所はありますか?

ひとつは、施主のリクエストを断らない。これは絶対断った方がいいと思うような要望もとりあえず分かりました、って言うんです。笑 それが既定路線外のルートにずれて、普通にスムーズにやるよりも、 想定を超える新しいアウトプットが生まれるのが面白かったですね。

__逆にそれは施主さんの思いを撥ねたんじゃなくて、受けてきたことがバネになって跳ねて、逆に新たなアイデアとなって生まれて来てるって事ですよね。

そうですね。 そうするとクライアントさんも喜ぶし、自分としてもびっくりする展開に進んだりするので面白かったですし、勉強になりました。

__クリエイターっていつの間にか想像の範囲内で仕事をしがちですが、思いも寄らないリクエストにも向き合うことで見えてくるものもあるんですね。 仕事をする上で意識していること、進め方などのお話を聞かせてください。

ひとつは、時間をかけてしっかり作るということです。世の中の通例は設計の期間があまりに短いと思っているので、プロジェクトの話をもらったときに、通常の倍の時間をかけてやりたいけどそれでいいか?という話はします。 住宅でも何であれ、その先50年とか100年とか残していこうってものを半年で考えてっていうのは、やっぱり足りないんです。 しっかり時間かけてやるべきだと思いますね。決められた時間内でやるしかない場合ももちろんありますけどね。 あとは、本来設計の後は現場で作るだけのはずなんですけど、現場と同時進行で、もっと良くしていくためのアイデアをずっと考え続けます。 なるべく現場に行って考えたり、職人さんと話したりしていると、職人さんも仲間になっていってくれて提案が出て来たり。 そうなると、上手くいくな。って思えます。

__弥田さんの作品の特徴を教えてもらえますか?

“綺麗で気持ちいい” ということです。 隅から隅まで神経が行き届いているような、そういうものにすべきだなって思っているので。 一つ一つ、ミリ単位で考えて、スケッチ描いたりして決めていきますね。 こうゆうものだとされてしまう常識もまず疑ってかかって、“新しい真の答え”みたいなものは常に探しています。 使いやすさも満たした上でこれがいいよね、っていうものはまだまだあると思うので。 派手さや目新しさではなく、精神によって指の先まで研ぎ澄まされた美しい所作とともに、不変性を持った真の新しさを見つけ出し、建築にしていきたいと考えて取り組んでいます。

__デザインを足して足していく人がたくさんいる中で、光を上手く見せようとか、マテリアルを上手に使おうと。 さっきおっしゃった綺麗というのはそうゆうことにも繋がりますか?

そうですね。不要なものをとにかく削っていきたいので、照明なんかもなるべく光だけで作りたいと思っています。 ノイズが無意識にすごくストレスで、美しさを感じる気持ちよさを阻害している。 それをひとつひとつ整理していくことで「なんだかよく分からないけど気持ちがいいな。」と感じてもらえると。 料理の隠し包丁のようなことであったり、仕込みみたいな手間をかけてあげると空間の気持ちよさも変わってくる。 例えば、細かな例ですが、トイレの換気扇とか、見えないように隠すんですよ。 天井の上にべたっと付けるんじゃなくて、天井と壁の間に隙間をつくって間接照明と換気扇をつけるんです。

__それ、すごくいいですね!そういう当たり前になってしまったノイズは実はたくさんあるんですね。 建築家という仕事の醍醐味、魅力を聞かせてください。

建築は、こうあったら素敵だなという物語としての世界観を創造して、それを現実化させられる、堪らない悦びのある仕事です。 こうゆう空間があるんだ。っていう喜び、驚きみたいなものを建築に触れる人に提供でき、毎日新鮮な気持ち良さを味わってもらえたり、記憶の場となる空間を作って、人の記憶に残るようなことができる。 作っていくプロセスですごくいろんな職種の人が関わって、一緒に作り上げていく喜びを共有できるし、できた後もみんなで作ったというのがその人の喜び、誇りとして続いて行くし。 その原点から携わって形にできるという意味では、建築家はすごく魅力的だなと思います。 結局、それが地球の表面、地形見たいなものになっていくので、地球のアップデートに繋がっていっているというか。

__地球の一部が出来上がってくると、、いいですね。 最後にトシオさんにとって、働くとは?仕事とは?

楽しんで生きるための日々の刺激となる建築が仕事になっているので、遊び、趣味と同化していて仕事と分けている感覚はないです。働くとは、そういうものであるべきだと思っています。 日常的にずっと考え続けて、そして手を動かして条件をインプットしてやっていくと、ある時にこうなるべきだったという秩序のような答えみたいなものが現れ始めるんですよ。そうなるとどんどん手が走りだして、見えた!って感じで、建築の全貌が頭の中に立ち上がる。 それで、作ってみると、「あ、こうなるんだ。」って思ってもなかった良いところがあったりする。 なので、考える過程も、作る過程も、出来上がった喜びも、繋がっていて、ひっくるめて建築という仕事が好きですね。

__ありがとうございました!

わかりやすいかっこよさではなく、見えないということの美しさ、機能的な心地よさ。 表層ではない本質的な部分に向き合われている姿勢が印象的でした。 常に今あるものを疑って、模索して、新しい心地よさを生み出していくこと。 ずっと大切にしてほしいから、作り手も時間をかけて大切に向き合うということ。 当たり前のようで、出来ている人がどれほどいるのでしょう? 同じクリエイターとして、たくさんのヒントをもらえました。

建築家
弥田俊男
Tosio Yada
1974年愛知県生まれ。京都大学大学院修了後、隈研吾建築都市設計事務所に13年間在籍し、サントリー美術館や根津美術館をはじめ、数多くの物件を手がける。2011年より岡山理科大学建築学科准教授に就任し、弥田俊男設計建築事務所を設立。現在、岡山と東京の2拠点を軸に活動している。
http://tosiyadarchi.com/